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新潟地方裁判所 昭和32年(行)15号 判決 1959年11月13日

原告 吉崎仁之平

被告 新潟県知事

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和三十二年三月三十日なした原告と訴外中野正次間の別紙目録記載の土地に関する賃貸借合意解約不許可処分は之を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として、

原告は別紙目録記載の農地(以下単に本件土地という)の所有者であるが昭和二十五年二月一日訴外中野正次に対し本件土地を賃貸期間同日より五ケ年、水利組合費、土地改良組合費は同訴外人負担の約で貸付けたところ、同訴外人は右水利組合費等の諸経費の負担をしないので、昭和二十九年七月二十七日右訴外人に対し右賃貸借契約を解除し被告に対しこれが許可の申請をしたが、被告は同年十二月二十二日右申請について不許可処分をしたので、原告はやむなく同訴外人に昭和三十年二月十九日本件土地を賃貸借期間を同日より一年、水利組合費、土地改良組合費は同訴外人負担とするとの約で賃貸した。然るに同訴外人は従前の契約に基く経費を負担しなかつただけでなく、更に右昭和三十年二月十九日付の契約に基く水利組合費、土地改良費をも負担せず農地法第二十条第一号所定の信義に反する行為があつたので原告は同訴外人に対し前記賃貸借の解約を申入れたところ同訴外人は右申入れを承諾したのでこゝに両者の間に解約の合意が成立した。そこで原告は昭和三十一年九月十七日被告に対して右合意に因る解約の許可申請をしたところ被告は昭和三十二年三月三十日右申請を不許可処分とし、同年四月八日これを原告に送達された、しかして被告の右処分は原告が本件賃貸借契約を合意解約するに至つた事情即ち前示賃借人の不信行為を顧慮することなくなしたものであるから違法である、よつて原告は右処分に対して同年六月六日農林大臣に訴願を提起したが、訴願提起の日から三ケ月を徒過するも裁決がないので前記処分の取消を求めるため本訴請求に及んだ、

と述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は、本案前の主張として訴却下の判決を求め、その理由として被告が原告主張の日にその主張のような合意解約不許可処分をしたことはこれを認める而して原告の本訴は農地法第二十条による右不許可処分の当否を争う訴であるから本件訴を提起する為には訴願法第八条の規定により被告は右不許可処分を受けた日から、六十日内に農林大臣に対し訴願を提起しなければならないものであるのに、原告は昭和三十二年四月二日前示不許可処分の送達を受けながら、これに対し六十日以上経過した同三十二年六月六日に至り訴願の提起をしたものであつて右訴願は期間経過後為された不適法なものであるから、かゝる不適法な訴願を経て提起された本訴は却下さるべきものであると述べ、本案に対しては原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告が本件土地を所有し訴外中野正次が本件土地を原告より賃借りしていること、原告が昭和二十九年十二月二十二日及び同三十一年九月十七日の二回にわたつて被告に対して本件土地についての賃貸借解約許可申請をなしいずれも不許可となつたこと、及び昭和三十一年九月十七日附申請に対する不許可処分に対して昭和三十二年六月六日農林大臣に対し訴願を提起したが、右訴願提起の日から三ケ月を経過しても訴願の裁決がないことは認めるがその他の事実は否認する、元来本件土地は原告が昭和十九年二月頃訴外中野正次に期間の定めなく賃貸したものであるが、その後賃貸期間を昭和二十五年二月一日より同三十年一月三十一日までの五ケ年間と改め、その五年の期間の満了後更に右期間を一年間とする契約に更新し、右期間満了後は期間の定めのない賃貸借契約として現在に及んでいるものである。原告はさきに昭和二十九年七月二十七日原告と訴外中野正次間の本件農地賃貸借解約許可申請をなしその申請事由として「今回自家労力により土地を効率的に利用するようになつたので解約する」旨主張しその申請が不許可となるや更に昭和三十一年九月十七日本件合意解約許可の申請をなしその理由として「孫成人の為」と主張したのであつて被告はこれを調査の結果理由なきものとして本件不許可処分をしたのである即ち昭和三十一年九月の本件許可申請当時における原告の自家労力は四人(内一人は十六歳の少女)で、外に雇用労力として年雇の作女一人を使つて田畑計三町二畝九歩を自作していたもので、右原告の耕作面積は居村赤塚村の平均耕作面積一町三反五畝歩、同村中権寺部落平均耕作面積一町五反四畝歩をはるかに上回るのに対し、賃借人たる訴外中野正次の自家労力は五人で耕作面積は本件土地を含めて一町四反八畝歩であり、又原告と同訴外人の経済状態を比較しても原告の政府供出米の数量は昭和三十一年度九十俵同三十二年度百十六俵であるのに対し、同訴外人は同三十一年度に二十五俵同三十二年度に三十俵を供出したに過ぎず、その上原告は毎年約三反歩の煙草を栽培し、その収入の開きは大きくこの事は昭和三十一年度村民税の課税対象となつた原告の総所得金額が四十七万五千三百円であるのに対し訴外中野の総所得金額が十五万八千八百円であることからも察知されるのである。この様に賃貸人たる原告と賃借人訴外中野の自家労力耕作面積、収入等の点から見て訴外中野が本件土地を原告に返還する時は賃借人の生計維持に支障をきたすことは明らかであり、一方原告の自家労力及び保有反別の点から見て原告に本件土地の効率的な耕作による生産の増大は期待出来ないと認められるので、結局農地法第二十条第二項第三号に所謂賃借人の生計賃貸人の経営能力等を考慮し賃貸人がその農地を耕作することを相当とする場合にも同第四号の「その他正当の事由がある場合」にも該当しないのであるから被告の為した本件不許可処分は妥当であつて何等違法の廉はない、原告は本訴において更に新に賃借人たる前示訴外人において本件賃貸借契約に基き負担すべき水利組合費、土地改良費を負担せず信義に反する行為があると主張するが、本件賃貸借契約に関して本件土地の水利組合費及び土地改良組合費を借主の負担とする旨の特約は存在しないが、同訴外人は昭和十九年二月頃から同二十三年頃迄の本件土地の水利組合費を西川北部水利組合(揚水関係)及び広通江普通水利組合(排水関係)に、更に昭和二十六年西浦原土地改良区設立以後は同改良区に土地改良組合費をそれぞれ納入しているものであつて同訴外人には原告主張の如き不信行為はないのであるから原告の主張はその理由がない、以上の如く被告のなした本件不許可処分には何等違法の点はないから原告の本訴請求は失当である、と述べた。

(立証省略)

理由

本件訴が農地法第二十条による賃貸借解約不許可処分の当否を争う訴であること、並びに原告が昭和三十二年三月三十日被告のなした本件賃貸借解約不許可処分に対し昭和三十二年六月六日農林大臣に訴願を提起したが、訴願提起の日から三ケ月を待過するも右訴願について裁決がないことについては当事者間に争がない。原告は本件不許可処分の送達を受けたのは昭和三十三年四月八日であると主張し被告はそれは同月二日であつて処分を受けた後六十日を経過しているから訴願は不適法であると主張するので審究するに成立に争のない乙第十一号証同第十二号証並びに証人斉藤信市及び同中原美逸の各証言を綜合すると本件不許可処分の原告に送達されたのは昭和三十二年四月二日であることを肯認するに足り右認定に反する原告本人尋問の結果は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。然らば原告のなした前示した訴願は本件不許可処分が原告に送達された日から六十四日経過して提起されたものであつて然も該期間徒過につき宥恕すべき事由ありや否やに付何等主張立証なき本件においては法定期間を遵守しない不適法な訴願であるといわなければならない。原告は訴願提起の日から三ケ月を徒過するも裁決がないからとして行政事件特例法第二条により訴願裁決前に本訴を提起したのであるが、原告の訴願が右の如く法定期間を徒過した不適法なものであるにおいては行政事件特例法第二条但書所定の訴願裁決を経ることなく訴を提起出来る訴願に該当しない。然らば原告の本件訴は訴提起の前提を欠くものであつて不適法であるから本案の判断をなすまでもなくこれを不適法として却下すべきものとし、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉井省己 園田治 元吉麗子)

(別紙目録省略)

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